【紅麹事件研究報告 第3報】「紅麹コレステヘルプ」の安全性評価に新たな疑問?過去のL-トリプトファン事件から学ぶべきこと

株式会社薫製倶楽部が、小林製薬の紅麹事件に関する研究報告の第3弾を発表しました!この「紅麹事件研究報告」シリーズでは、事件の科学的・法的論点を社会に広く伝えることを目指しています。今回の第3報では、工業用変異株とL-トリプトファン事件という過去の事例から、安全性評価の重要なポイントを掘り下げています。

紅麹問題検証

「紅麹コレステヘルプ」って、どんな製品だったの?

今回の報告で一番大切なのは、紅麹コレステヘルプを「伝統的な食品」として見るのではなく、「特定の成分をたくさん作るために設計された発酵製品」として捉え直すことだ、という指摘です。実は、紅麹コレステヘルプは、モナコリンKという成分を多く作り出すために選び抜かれ、改良されたBP-412株という菌を使って作られた発酵製品を、そのまま製剤化した機能性表示食品だったんです。

味噌や納豆、チーズといった伝統的な発酵食品は、何千年もの食経験があり、その安全性は歴史的に確認されていますよね。でも、紅麹コレステヘルプは、モナコリンKの産生能力を高めることを目的としたBP-412株(グンゼの特許文書にも記載があります)が使われているため、伝統的な紅麹菌の発酵物とは、代謝産物の組成が違う可能性があるとされています。つまり、「特定の成分をたくさん作るために設計された菌の発酵物を、精製せずに長期間摂取する」という製品の構造が、従来の食品安全評価では十分にカバーできない問いをはらんでいる、というわけです。

30年以上前の「L-トリプトファン事件」との意外な共通点

今回の報告では、1989年にアメリカで起きた「L-トリプトファン事件」が比較対象として挙げられています。この事件では、昭和電工が製造したL-トリプトファンというサプリメントを摂取した人々に、好酸球増多筋痛症候群(EMS)という健康被害が多発し、死者も出ました。

L-トリプトファン事件の主な論点は、以下の通りでした。

  • 工業用変異株(高生産性変異株)の使用

  • 製造工程の変更(精製工程の簡略化の可能性)

  • 不純物の混入の可能性

この事件では、30年以上経った今でも単一の原因物質は特定されていません。それでも、昭和電工は訴訟で敗訴し、数千億円規模の補償を行ったそうです。

紅麹コレステヘルプ事件との比較で浮かび上がる疑問

L-トリプトファン事件と紅麹コレステヘルプ事件には、「工業用変異株で特定の成分を高産生させた発酵製品」という共通点があります。しかし、両者には決定的な違いがあります。

L-トリプトファン事件では、精製された製品に不純物が混入した可能性が問題となりました。つまり、「目的成分を精製して製品化する」という前提の上で、その工程に問題があったのではないか、という話だったんです。

それに対して、紅麹コレステヘルプは、そもそも精製工程自体が存在しませんでした。モナコリンK産生のために作られたBP-412株による固体発酵物を、そのままカプセル化していたんです。これは、「精製工程上の問題」ではなく、「精製工程を経ない発酵物全体の長期摂取」という、より根本的な安全性評価の問いを含んでいると指摘されています。

比較表で見てみよう!

比較項目 L-トリプトファン事件(1989年・米国) 紅麹コレステヘルプ事件(2024年・日本)
① 使用株・製造目的 L-トリプトファン産生能を高めた株 BP-412株(モナコリンK産生能を高めた株)
② 精製工程 L-トリプトファンを精製して製品化(工程の問題指摘) 精製工程なし。固体発酵物をそのまま製剤化
③ 摂取物の性質 精製されたL-トリプトファン BP-412株による発酵物まるごと(菌体・副生成物含む)
④ 原因究明の方向性 工業用変異株・製造工程・不純物が検証対象に プベルル酸を中心とした説明
⑤ 原因物質の確定 30年以上経った現在も未確定 比較的短期間でプベルル酸が原因物質として認識
⑥ 補償 総額数千億円規模の補償を実施 補償が進められているが、検証課題が残る
⑦ 教訓 工業用変異株使用時の精製・品質管理の重要性 工業用変異株発酵物をそのまま食品利用することの安全性評価の問題

L-トリプトファン事件では、高産生株や製造工程、副生成物といった多角的な検証が行われ、その過程も広く公開されました。しかし、紅麹コレステヘルプ事件では、プベルル酸を中心に原因究明が進められた、という違いがあります。

一番大切な疑問は、「モナコリンKをたくさん作るように作られた菌からできた発酵物を、そのまま精製せずに長い間飲み続ける製品について、どんな安全性のチェックがされて、その証拠はちゃんと公開・確認されたの?」という点です。この問いへの答えは、今後の食品安全行政における重要な課題として残されていると言えるでしょう。

まとめ

目的成分をたくさん作り出すために改良された株を使った発酵製品は、食品や医薬品の分野で広く使われている技術です。でも、グルタミン酸やクエン酸、抗生物質などは、目的成分を精製してから製品にしていますし、味噌や納豆のような精製しない発酵食品は、長い食経験で安全性が確認されています。

紅麹コレステヘルプは、これらのどれにもはっきりと当てはまらない、ちょっと特殊な製品だったのかもしれません。伝統的な発酵食品の食経験も、精製された発酵製品の安全性評価の枠組みも、そのままでは適用できない可能性があるわけです。

株式会社薫製倶楽部は、この問題について引き続き研究報告を行っていくそうです。次回、第4報では、EUの新規食品規制(Novel Food規制)との比較を取り上げる予定とのこと。BP-412株のような変異処理株がヨーロッパでどのように扱われるのかを検証し、日本の食品安全行政との違いを明らかにするそうなので、注目ですね!

紅麹問題検証に関する詳細はこちらから確認できます。
紅麹問題検証サイト

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